脳梗塞
脳梗塞 ― 特に糖尿病患者さんのために ―
脳梗塞は脳卒中(脳血管障害ともいいます)の一つです。脳卒中には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、動静脈奇形からの出血などがあります。 脳卒中は長年わが国における死亡原因の第1位の座を占めてきましたが、現在では悪性新生物(癌)、心疾患に次いで第3位になっています。
その理由は癌や心臓病が近年増加していることもありますが、 脳卒中のうち死に至るような重篤な脳出血が高血圧治療の普及で減ったことが挙げられます。 脳卒中の病態は食生活の欧米化で以前と比べ大きく変化していて、 高血圧と関連の強い脳出血が減少する一方で糖尿病や高脂血症と関連の強い脳梗塞が増加しています。 その結果、最近では脳卒中の内訳は脳梗塞65%、脳出血24%、くも膜下出血11%と脳梗塞の占める 割合が急速に増加しています(図1)。そこで脳梗塞にスポットを当て、私見をいくつか述べたいと思います。
図1 脳卒中の内訳
脳梗塞は脳動脈の一部に限局した閉塞が起こり、閉塞した血管から血液を供給されている組織が壊死して生じます (図2に脳梗塞のCT像を示します)。つまり脳の神経細胞が血管の閉塞により破壊され死んでしまうわけです。 起こった原因により脳梗塞は、アテローム血栓性梗塞、心原性塞栓症、ラクナ梗塞、その他に分類されます。
アテローム血栓性梗塞は頭蓋内・外の比較的大きな動脈のアテローム性動脈硬化を原因とするものです。 アテロームとは粥腫(じゅくしゅ、と読みます)という意味で、血管の最も内側の皮膜下に脂質や、 マクロファージという脂質をむさぼり食う白血球や、 その産物がまるで粥(むしろ雑炊)のようにどろどろになって堆積します。 そして薄皮となった皮膜が破れると内容物である粥腫が血管内に飛び出します。 そこに血小板などが付着し血栓となって血管を閉塞して脳梗塞が成立します。
図2 脳梗塞のCT像
次に心原性塞栓症ですが、これは心臓由来の塞栓によって生じます。 このうち最も頻度が高いのが心房細動という不整脈によるものです。 心房細動があると本来備わっている心臓のリズミカルな収縮と拡張が失われ、 心臓内を環流する血液の一部がうっ滞を起しやすくなります。 血液は流れが十分保たれているときは固まりにくいのですが、 流れが止まると固まりやすくなる性質があり、時に血栓を作ることがあります。 心臓内に血栓ができるとそれが血流にのって心臓より下流にある他の臓器に運ばれます。 運悪く脳にまで運ばれると脳梗塞を起こしてしまいます。 不幸にして長嶋茂雄さんがこれにかかられました。
最後にラクナ梗塞ですが、これは生活習慣病である高血圧や糖尿病を基礎疾患に持つ方に多く発症します。 これは最小動脈である穿通枝系という動脈が詰まって起こります。 ラクナとは、ラテン語で小さい空洞を意味します。ラクナ梗塞は小さな梗塞ですが、多発する傾向があり、 決して「楽な梗塞」ではありません。さてこの3つの脳梗塞の比率ですが、 福岡県の久山町研究では、65歳以上の高齢者集団での割合はアテローム血栓性梗塞33%、 心原性塞栓症26%、ラクナ梗塞41%となっています(図3)。生活スタイルの変化のためでしょうか、 最近ではアテローム血栓性梗塞が増加傾向にあるようです。
図3 脳梗塞原因別比率
では脳梗塞を起こしやすい危険な因子とは何でしょうか。 なんといっても1番目は高血圧症ですが、 実は糖尿病も高血圧症に負けないくらい強い脳梗塞の危険因子なのです。 そこで最後に糖尿病患者さんの脳梗塞の特徴を述べたいと思います。
糖尿病患者さんの脳梗塞の頻度
糖尿病患者さんにおける脳血管障害の相対危険度については、古くから報告がなされています。
1979年のFraminghamStudyでは2.2倍、1987年のHonolulu Heart Program では1.9倍、1993年の久山町研究では2.7倍などと、
糖尿病のない人と比べ平均で2~3倍危険度が高くなります。
表1に平成14年度の厚生労働省の糖尿病実態調査における糖尿病および糖尿病予備軍の方の脳卒中発症率を示します。
表1 平成14年度 糖尿病および糖尿病予備軍の方の脳卒中発症率
再発率
糖尿病患者さんでは脳梗塞罹患時の死亡率が糖尿病のない人と比べかなり増加します。 また、脳梗塞の再発率も明らかに高いとされています。
再発予防
脳梗塞罹患後の最大の問題の一つは脳梗塞の再発です。 一度脳梗塞を起こした人が再び脳梗塞にかかる確率は健常者が脳梗塞に初めてかかるより かなり高率であるとされています。再発はアテローム血栓性、心原性、ラクナ梗塞の順に起こりやすいようです。 再発予防の医学的対応の要点は以下の通りです。
- 1) 心原性梗塞にはワーファリンを使用します。
- 2) 頚動脈に強い狭窄がある場合は脳外科的血管内治療も考慮します。
- 3) 不整脈である心房細動があるときは原則的にワーファリンを使用します。
- 4) 心房細動がなく頚動脈狭窄もない場合はアスピリン、チクロピジンなどが有効です。
以上、脳梗塞に関し述べさせていただきました。 脳梗塞予防はなんと言っても生活習慣病である 高血圧、 高脂血症、 糖尿病 をコントロールすることと思います。 当院のホームページ、 生活習慣病 の項目を参照していただけたら幸いです。