メタボリックシンドローム
-west size story(ウェストサイズ物語)-
過食や運動不足などの生活習慣の乱れは、私たちの腹腔内に脂肪を蓄積させ、 この蓄積された内蔵脂肪が動脈硬化の元となるインスリン抵抗性という病態をつくるとされています。 このインスリン抵抗性は糖尿病、高血圧、高脂血症を起こし、 これらが互いにリンクして動脈硬化の終着駅である心筋梗塞、脳梗塞、腎不全などの病気に至ると考えられています。
肥満には"皮下脂肪型肥満"と"内臓脂肪型肥満"があります。 皮下脂肪型肥満は腰まわり、お尻、太ももなどの下半身の皮下に脂肪が溜まるタイプのもので 「洋なし型肥満」とも言われますが、メタボリックシンドロームには関係ありません。 これに対し内臓脂肪型肥満は内臓の周りに脂肪がたっぷりと溜まり、 その結果お腹がぼっこり出るもので、「りんご型肥満」とも言われ、 メタボリックシンドロームの人の肥満です。 両者は腹部CTを撮影することで明確に区別することができます。
ではメタボリックシンドロームの人の"内臓脂肪とはいったい何もの?"なのでしょう。 皮下脂肪と内臓脂肪を合わせた脂肪組織が人の体に占める割合は、正常体重者で10~20%、 肥満者ではなんと40~50%とされています。 実はこの脂肪組織が生体最大の内分泌臓器で種々の物質を分泌していることが最近の研究で解明されたのです。 脂肪組織由来の内分泌物質は総称してアディポサイトカインと名づけられ、 動脈硬化に大いに関係していることがわかったのです。アディポサイトカインは、 コレステロールに善玉とされるHDLコレステロールと悪玉とされるLDLコレステロールがあるように、 善悪両方の物質を含んでいます。 善玉の代表がアディポネクチンで動脈硬化と密接に関連するインスリン抵抗性を改善します。 悪玉にはPAI-1やTNF-αなどがあり、これらは心筋梗塞や脳梗塞の原因である血栓をつくりやすくしたり、 インスリン抵抗性を起こしたりします。 内臓脂肪型肥満では善玉のアディポネクチンを分泌する小型脂肪細胞が減り、 悪玉のPAI-1やTNF-αを分泌する大型脂肪細胞が増えます。その結果インスリン抵抗性が増し、 糖尿病、高血圧、高脂血症が引き起こされ、体の中は動脈硬化や血栓ができやすい状態に誘導されます(図1)。 内臓脂肪の過剰蓄積は動脈硬化を進行させ心筋梗塞や脳梗塞を発症させる原因となるのです。
表1に2005年に作られたわが国のメタボリックシンドロームの診断基準を示します。 私たちがメタボリックシンドロームの可能性を簡単に判定できるのがウェストサイズ(腹囲)です。 診断基準では、男性は85cm以上、女性は90cm以上となっています。 この値は腹部CTで測定した内臓脂肪面積で100cm²以上に相当する、ということで決められたものです。 内臓脂肪過剰蓄積とされる面積はCTで100cm²以上だからです。 なおウェスト測定に際して注意しなければならないことは"おへそ"のある位置で腹囲を測ることで、 腰の最も細い部分を測るのではないということです。なぜなら"おへそ"の位置がもっとも内臓脂肪の多い部分だからです。 マグロのお腹にたとえれば脂がたくさんのった大とろの部分を測るといったところでしょうか。 この"おへそ"の部分を集中的に細くしなければならないのです。 ところで内臓脂肪を減らすのはなかなか難しそうに思えますが、 実は内臓脂肪は皮下脂肪に比べ代謝活性が高いため食事を制限し運動を積極的に行うことで容易に減らすことが可能です。 現在日本には予備軍も含め約2,000万人のメタボリックシンドロームの患者がいると推計されています。 先ほどの診断基準をもう一度見てください。皆さんの中にも、この基準に入っている方がいるのではないでしょうか。 もしそうであるなら今日から食事制限と運動を始めましょう。 そしてウェストサイズを細くしましょう。ウェストサイド物語ではなく、 皆さんのウェストサイズ物語を始めてくだい。
表1・メタボリックシンドローム診断基準 | |
内蔵脂肪(腹腔内脂肪)蓄積 | |
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ウエスト周囲径 | 男性≧85cm |
女性≧90cm | |
(内蔵脂肪面積 男女とも≧100cm²に相当) | |
上記に加え以下のうち2項目以上 | |
高トリグリセリド血症 かつ/または 低HDLコレステロール血症 |
≧150mg/dL |
<40mg/dL | |
男女とも | |
収縮期血圧 かつ/または 拡張期血圧 |
≧130mmHg |
≧85mmHg | |
空腹時高血糖 | ≧110mg/dL |